2013年度(第31回)全国大会

概要

「『わかる』から『できる』へ ―目標設定及び授業実践の課題」

日時:2013年6月15日(土)-16日(日)
場所:愛知大学車道校舎

趣旨

 2013年度から施行された高等学校の新学習指導要領外国語では「コミュニケーション能力の育成」がより重視され、「言語活動と関連づけて行う文法指導」が推奨されています。そのことに関連して、文部科学省は中・高生の外国語学習において、学習到達目標を「CAN-DOリスト」の形で具体的に設定することを推進し、同年3月には、そのための手引きが各学校に配布されました。その目的として、次の3点が挙げられています。
 ・学習指導要領に基づき、観点別学習状況の評価における「外国語表現の能力」と「外国語理解の能力」について、生徒が身に付ける能力を各学校が明確化し、主に教員が生徒の指導と評価の改善に活用すること。
 ・学習指導要領を踏まえ、「聞くこと」、「話すこと」、「読むこと」及び「書くこと」の4技能を総合的に育成し、外国語によるコミュニケーション能力、相手の文化的•社会的背景を踏まえた上で、自らの考えを適切に伝える能力並びに思考力、判断力、表現力を養う指導につなげること。
 ・生涯学習の観点から、教員が生徒と目標を共有することにより、言語習得に必要な自律的学習者として、主体的に学習する態度・姿勢を生徒が身に付けること。
 つまり、文法・訳読中心の授業、入試対策に特化した、何かを理解する「わかる」ことに重きを置いた授業から、学んだ結果何かが「できる」ようになり、外国語が使えるようになる授業を実施してい<ことが求められています。
 これからのことについて、本研究会では、英語教育よりも一歩先を進んだ実践をされている先生方も多くいます。会員有志が参加するプロジェクトの成果として2012年発行された『外国語学習のめやす2012高等学校の中国語と韓国語教育からの提言』(国際文化フォーラム発行)の中に、前述した文部科学省の先の理念も含む新しい外国語教育の理念、そして教授法等が具体的に示されているからです。
 しかし、現状では「週に2コマ(1コマは甚本的に50分)しかないような高校の現場では、場面や状況設定の必要性は分かっていても、つい文型指導に重きをおき『教科書を教える』というスタイルになってしまう。」「教員は自分が受けてきたスタイルと異なる教授法をすることに不慣れで、生徒は英語の『文型積み上げ形式』の指導に慣れているためか、タスクや活動をとおして文法事項を教えようとしても活発にならず、うまくいかない。」というような悩みを解決できずにいる先生方や、『めやす』の理念には賛同できてもなかなか実践に踏み切れないという先生方もいるのも事実です。
 また、生徒が短時間で何かが「できる」ように指導するためには、教授法を工夫し、生徒の実態に応じた目標設定をするとともに、文法や語彙の指導にも、エ夫や改善が必要です。外国語が「できる」ためには語彙量を増やし、文法を学び、使える文型等を増やすことが必要不可欠になります。効果的で効率的な語彙や文法のインプットや内在化のための指導法等の研修を積み重ねなければ実践は難しいと考えている先生方もいます。
 このような状況を踏まえ、今年度全国大会のテーマは「『分かる』から『できる』へー目標設定及び授業実践の課題」としました。

報告

 2013年度の全国大会が、去る6/15(土)~16(日)の2日間、愛知大学車道校舎において「『わかる』から『できる』へ ―目標設定及び授業実践の課題」というテーマで開催され、盛会のうちに終了いたしました。ご参加になった先生方、お疲れ様でした。
 大会の模様は、6月16日付け中日新聞県内版で、カラー写真入りの記事で取り上げられました(PDFはこちら)。

 6/15(土)は13:30に開会しました。開会行事ではまず、会場となった愛知大学から現代中国学部長 安部 悟先生にご挨拶をいただきました。ご自身も開発に関係された愛知大学オリジナルの中華風カレー「中華麗」をご紹介(これは参加者全員に1箱ずつ配られました)、就職戦線で留学生が多く採用されており、中国をはじめとしたアジアの学生との競争が現実のものとなっている実態から、いかにアピールできる学生を育てるかが今まで以上に大事になっていることを話されました。次に代表理事の松山美彦先生(北海道登別明日中等教育学校)が大会テーマの趣旨を中心に挨拶をしました。高校の今年から新学習指導要領が適用され、英語でCan-doリストを作成することが求められるようになり現場が困惑しているが、中国語教育ではCan-doリストを作る必要性はすでに広く理解されており、Can-doリストを有効に活用する方法を英語の先生方に教えようと呼びかけました。
 基調講演は、NHKの語学講座「テレビで中国語」などでおなじみの愛知大学地域政策学部教授 荒川清秀先生によるご講演。テーマは「中国語教育における語彙指導~語素の問題から考える」でした。40年にわたるご自身の教学経験から、どのように語彙指導を進めていくべきか話されました。
 まず発音指導の際に、ご自身がどのような語彙(漢字)を導入しているか、具体的にご紹介頂きました。次に語と語素の違いを、生徒には理解させる必要はないが、教師はわきまえる必要があるとされ、漢字が必ずしも語の単位になっているわけではないことを様々な例を通してお話しになりました。語素「子」や「儿」がつく場合とつかない場合とその意味の違い、最後には口語表現の中に現れる書面語についても話されました。
 90分は授業の時間で長いと最初はおっしゃっていましたが、まさに授業のように、我々の知識を試すように語りかけたり(事実、来賓の総領事館の曾さんは一番前に座っておられたので何度も当てられてしまいました)、現地で取られた看板の写真などを紹介されました。また私たちの授業でも利用できる小ネタもたくさん紹介していただきました。
 総会では、星野勝樹先生(伊奈学園総合高等学校)を議長に選出、2012年度の事業報告と決算、2013年度の事業計画と予算が審議され、その後会則の会員細則の改正案が了承されました。その後役員改選。年度末で退任された理事の先生方の紹介と新役員が紹介され、2013年度の役員案は承認されました。懇親会はキャンパス1階の食堂を会場に行われ、おいしい料理を肴に先生方の交流の古い枝先が新しい枝葉をつけて多くの花が咲き乱れ、あっという間に時間が過ぎました。

 2日目は分科会と閉会行事が行われました。
 まず9:30から50分、第1分科会・安武正浩先生(愛工大名電高校)「読めた!できた!~音読活動のバージョンアップ~」と第3分科会・角田圭子先生(岐阜総合学園高校)「『できる』の目標設定の試み―『高校中国語』(白帝社)から―」の発表と質疑応答が行われました。
 安武先生の発表は、先生方を生徒に見立てて、音読指導の方法を実際に体験するワークショップ形式で、大変盛り上がりました。角田先生は、国際文化フォーラム編『外国語学習のめやす2012』をもとに、高中研編『改訂新版 高校中国語』白帝社を分析され、さらに文法項目を生かし「できる」の目標設定を試みた取り組みを報告されました。
 次に10:30から50分は、第2分科会・杉山明宏先生(岐阜市立岐阜商業高校)「ルーブリックを使ったピンイン指導」と第4分科会・由川美音先生(大阪市立咲くやこの花高等学校)「コミュニケーションツールとしての中国語を目指す授業活動」の発表と質疑応答が行われました。
 杉山先生の取り組みは、生徒の自己評価にルーブリックを取り入れるもので、先生が注意してほしい観点について、4段階の評価をさせ、自分の発音を振り返らせるとともに、生徒の実態を把握しようというもので、大変興味深いものでした。由川先生は、教科書の例文暗記や入れ替え練習から「できる」コミュニケーションツールとして応用できる力にするという目標を掲げ、語彙と表現の定着のために取り組んでいるインタビュー活動を報告し、同様な取り組みをしている参加者とさまざまな情報共有を行いました。
 閉会行事では来年の全国大会が北海道支部が開催することが報告され、北海道支部の松山先生から、挨拶がありました。来年度も6月中旬、札幌市内の大学を会場とする方向で調整したいとのことでした。
 
 主管していただいた東海支部の皆さんお疲れ様でした。
 2014年度は札幌でお会いしましょう。


プログラム